世の中、始めはひとり、やがて集団
 ひとりで遊ぶのより、気の合う友達と一緒に遊ぶ方が楽しいことは就学前の子供でもよく知っています。大人でも同じこと、例えば魚釣り、自分一人で目的地を決め、当日は早朝から意気込んで行ったものの、坊主だった場合、落胆は大きいでしょう。それよりは同好の仲間が集まって、場所の相談をし、一台の車でワイワイと釣談義をしながら目的地までの道中は楽しいでしょう。結果が同じく坊主であったとしても、残念さは半減され、次回の相談などで別の満足感が得られると思います。
 ところが私の趣味である「木工」は自前の場所へ工具を揃え、木を加工して何かを作るのが中心です。大抵が庭か車庫が場所で、狭いながらも作業場を持てるのは少数です。その一人分の場所へ、一人分の工具を使って「ゴソゴソ」と、終始無言でやるのですから孤独といえば孤独です。明るい趣味ではないな、とは以前から思っていました。

一人の来訪者で先がパッと明るくなる
 25才の頃から始め、36年も続けているとこの孤独もあまり気にならなかったのですが、平成19年の5月、ある中年の紳士が私の会社を訪ねて来られました。
 渡瀬重春さん、とおっしゃるこの方の名詞は、食品会社会長、裏を返すと、商工会議所、副会頭とあります。「この肩書きは関係ないです。あと半年で全て返上しますから」、とおっしゃるのです。以下、彼の話を要約すると、60才を期に、社長を後継者に譲り会長となったので時間のゆとりが出来た。かねてからやりたいと思っていた木工を本格的にやり出したところ、作品が次々に生まれ工房が一杯になった。と同時に孤独な作業を日がな一日やっていると世間から離れてしまう。「同じ趣味の人はどうしているのだろう?」この疑問にぶつかって同好者を探していくうちに何かの記事で私のことを知り訪ねて来たのだ、おっしゃるのです。
 私はご存知のように今は積算を生業としいてますから木工は夜と休日だけの趣味ですが、この方にとってはまさに直面した問題です。かく言う私も平成20年5月には62才、65才でのリタイヤを予定していますからあと数年でこの方と同じ境遇になることは容易に想像がつきます。
 「日曜大工作品集」というテーマのこの文にもそろそろ「リタイヤ」という文字が入ってきました。申し訳ありません。次回はこの方と二人三脚で「三重木工クラブ」と名の付く集団の立ち上げと、その後の活動状況を紹介し同世代の方を少しでも励ましたいと思っています。