何故か暗いイメージが多い、「家」や「建物」に関する言葉・ことわざ        潮田春生
 私達が普段何気なく使っている言葉や、言い回しの中には 体の一部を引用したものがたくさんあります。 例えば「手」を例に取って挙げてみると・・・。
手を加える/手を尽くす/手が掛かる/手を廻す/手違い/手を貸す/手当てする/手当てをはずむ/手を施す/手間賃 /手配する/飼い犬に手を噛まれる/手切れ金/手っ取り早い/手短に/手形/手付金/手心を加える/手先/手取り足取り
 これで20ですが、まだここ他にもたくさんあるでしょう。 ついでに 「顔」はどうでしょう。
顔色/顔役/顔パス/新顔/古顔/顔負け/顔向け/顔が利く/顔なじみ/顔と心は別/顔で泣いて心で笑って/合わせる顔がない/顔見知り/顔出し/紅顔の美少年/顔色をうかがう/色の白いは七難隠す/何食わぬ顔/顔に書いてある これもとりあえず20。
 この辺から、私達の「メシの種」である「建築」に話を向けてみましょう。家や建物の一部から引用した言葉や、言い回しも結構あるものです。 これらをただ思いつくままに並べたのでは面白くありません。その言葉を持つ意味を、私の主観で良いものから悪いもの、4つのグループに分けて列記してみます。
第一グループ(良い・明るい意味) 建設的/ 門出/ 名家/ 名門/ 老舗/ 桧舞台/ 晴れ舞台/ 一家の大黒柱/ 縁の下の力持ち/ 笑う角には福来る/ 基礎固め/ 狭いながらも楽しい我が家/ アットホームな雰囲気/ 蔵が建つ/ 億ション
第二グループ(良くも悪くもない・普通) 家元/ 屋号/ 学び舎/ 窓口/ 四畳半/ 家探し/ 相撲部屋/ 敷居をまたぐ/ 軒を連ねる/ 軒を借りる/ 向う三件両隣/ 井戸端会議/ 床(トコ)を背にして座る/ 暖簾(ノレン)をくぐる/ 門戸を広げる/ 棚上げ/ 棚卸し/ 家督を譲る/ 入門する/ 出家する/ 檀家/ 蔵出し 大蔵大臣/ 寺子屋/ ロビー外交/ 露天商/ ちょいの間/ 門の叩く/
第三グループ(やや悪い意味) 家系/ 家柄/ 壁にぶつかる(限界の意味で)/ 南北(東西)の壁(国境の意味で)/ お家騒動/ お家大事/ お庭番/ 他人の台所/ ベランダ族/ マンション族/ 宿六/ ホームレス/ 敷居が高い/ 壁に耳あり障子に目あり/ 台所事情/ 他人の勝手口を覗く/ 家出する/ 壁の華/ トイレが近い/ 青天井/ 天井知らず/ 狭き門/ 隣の芝生は青い/ 家賃が高かった/ 雨露をしのぐ/ 楽屋裏/ ホームシック/ マイホーム主義/ 空きビル/ ビル風/ 鍵っ子/ 店ざらし/ 野中の一軒家/ 一家主義/ 出る杭は打たれる/ かこわれ者/ 塀の中(刑務所の意味で)/ 門戸を閉ざす/ 独居老人/ 開店休業/ 羽目を外す/ 畳の目を数える/ 窓際族/ 屋上屋を連ねる/ 温室育ち/
第四グループ(悪い・暗い意味) ブタ箱/ タコ部屋/ 家が傾く/ お家断絶/ 屋台骨を揺るがす/ 砂上の楼閣/ 侘び住まい/ 庇を貸して母屋を取られる/ 門前払い/ 玄関払い/ 台所は火の車/ 梲(うだつ)が上がらない/ 奈落の底に落ちる/ 安請負/ 安普請/ お家大事/ 家付きカー付きババア抜き/ 宿無し/ 破門される/ 仕舞屋(しもたや)/ 出所する/ 家出
以上が、このテーマで書こうきめてから三日間で思いついた言葉や言い回しです。 もっと時間を掛け絞りだせば出てくるとは思いますが 、ひとまずこの辺で締めて集計してみましょう。

第一グループ(良い意味) 16
第二グループ(普通の意味) 27
第三グループ(やや悪い意味) 46
第四グループ(悪い意味) 23

合計112
これを円グラフにすると、このようになります。
 この他にもまだ追加することも可能ですが、この割合そのものは あまり変わらないと思います。 私の分析によりますと「良い」が14%に対して「やや悪い」 と「悪い」を合わせると62%になります。皆さんはこの現象を どのように考えられますか。
 私達が「メシの種」としている、「家」や「建物」には悪いことが多いのでしょうか。 それらに造っている建設業界は暗い業界なのでしょうか。 いや、そんな事はないはずです。人間が生きていくのに欠くことの出来ない衣食住の一角を担っているのですから 重要なはずです。それなのに何故、悪い、暗いイメージの方が多いのでしょう。 私流の解釈でこの話を締めくくりましょう。
悪いところが先に目に付く
 例えばある人と付き合ったとしましょう。普通ですとその人の欠点や、自分の気に入らない点が先に、 そして多く目に映ると思います。まず体型や容姿です。次に声、喋り方、動作、最後が人間性や考え方になります。余程意識して、かつ好意的に見ないとその人の良い点を発見することは難しいと思います。 まして、良い点を数え上げることなど至難の業ではないでしょうか。数の上では圧倒的に「悪い」や 「気に入らない」が多くなってしまうのが普通の人です。 もし、良いと悪いが数の上で半々、という人がいたとしたら、 この人は相当立派な人か又は、「八方美人」ということになります。
 もうひとつの理由は、「世の中には良いことが少なく、悪いことが多いからくれぐれも気を付けなさい」 という先人の戒めかもしれません。
このように考えていくと、良い意味が少ないのが普通で、我が建設業界も決して暗くはないというのが このテーマの結論であります。