医者では薬を渡さなくなって来た。
 お医者さん、あるいは病院で診察を受け、ケガや病気の説明を受け、薬を貰い、 治療費の一部を払って帰る。このような行為がここ何十年も続いてきました。 ところが最近、5,6年前からでしょうか、薬を渡さないお医者さんが出始めました。 それと同時に、医院の近くに「〇〇調剤薬局」という看板を掲げた小さな薬局を見かけるようになりました。 診察の後、お医者さんは「処方箋」という書類を書いて私たちに渡し 「これを持って調剤薬局に行き、薬を貰って下さい」と言われます。

 "総医療費に占める薬代を減らす”という政府、厚生労働省の医薬分離方針のもと (医者が患者に本来の治療には不要な薬を過剰に投薬するのを防ぐため)、 大病院を除いた一般医療機関ではこのシステムが少しずつ、しかも着実に 増えつつあります。私達利用者から見ると、調剤薬局まで移動するのが 面倒な上、そこでも改めて薬代を支払わなければならず、合計で少し出費が増えたなー、程度に考えていました。

 ところで、私共の仕事は建築物のコスト(原価)を追求することにあります。 こんな関係でヒト様の業界も「原価」が気になります。今回は自分の体験を通して「薬」の方に少し首を突っ込んでみました。すると、意外な事実が解ってきたので皆さんにもお知らせしたい、これが今回のテーマです。


最近増えてきた調剤薬局。
2割負担にしては薬が高すぎる。
 私達、中小企業に従事している者(社員も事業主も同じ)が加入しているのが政府管掌の健康保険で、 社会保険庁が運営を行っております。ご存知の通り、月々の給料からかなりの額を徴収されていますので、ケガや病気で、医療機関 に支払う総額の2割を窓口で負担することになります。ですから、仮に1,000円の薬を貰った、 いや正確には「買った」場合、保健負担が800円、自己負担で200円を払います。逆に、200円請求された場合は5倍して1,000円が薬代と、 私はこのような考えでおりました。

 ところが実体はそうではなく、もっと多額のお金が私達の見えない所で動いていることが解って来ました。 と言うのは私の持病、と言ってもこれは体質で、毎年冬になると肌が乾燥しカサカサになります。お風呂などで体温が上がると、あちこちが痒くなってきます。この治療に皮膚科へ行きました。 診察、治療、説明の後、例の決り文句です。「この処方箋を持って・・・」と言われました。これまでですと、ハイと言って素直に 隣の調剤薬局に行き、それと引き換えに薬を受け取り、自己負担分を払う。後は薬を塗って治すというパターンでした。

 しかしこの薬価に興味を持った今回は少し方法を変えてみました。つまり医師の書いた処方箋をコピーに取り、後々の研究材料にしてみました。
軟膏イメージ。
 翌日、何食わぬ顔で調剤薬局に出向き、薬を受け取った訳です。その薬とは、名称を「ヒルドイドソフト」と言い、肌の保湿をする、どちらかと言えば化粧品に近い25gのチューブ入り軟膏でした。
「450円になります」と言われましたので私流の式に当てはめてみると
〔450円×5=2,250円〕となります。

 うーん この小さな軟膏が2,000円以上? おかしい!! 薬剤師さんに食い下がってみるとこの薬代に納得がいかない私は早速、薬剤師さんに説明を求めました。それによると、「この中には @薬剤費 A調剤基本料 B指導、管理料が含まれており、これらの合計164点で1,640円になりますからそれの2割負担で328円、また別に薬剤費負担が100円掛かり、消費税を加えて450円になります」
  私?? もう少し詳しく教えて貰えませんか?と食い下がると、

@は文字通り薬代そのものです。労働厚生省が定めた薬価基準に基づいた値段(定価)です。

Aは処方箋に基づいて薬を渡すことが出来るのは薬剤師だけに許可された行為で、それに対する報酬です。

Bの指導とは薬の使用方法を説明に対する報酬です。管理料とは今、お渡しした手帳に今回の薬に関する事を記録した手数料です。

 これら@〜Bまでを保険点数にした合計が164点になるのです。と解ったような解らないような説明をしてくれました。
私としては@はともかく、AとBの行為に対していくらの報酬が支払われるのかが興味深かったのです。その詳しい説明を求めましたがにわかに彼の曇ったのを見て、突っつくのもこの辺が限界かと思い、「そうですか」と言ってその場を後にしました。


解らない事がいっぱい。ますます疑問が湧く私。
 私の知人に医療行政に携わっている人がいることを思い出しました。早速彼に説明してもらった結果、およそ次のような解ってきました。

 まず@は前にも述べましたが薬品の定価です。労働厚生省が発行している「薬価基準」という冊子の中には認可した全ての薬の1錠当たり、1g当たり、1cc当たりの単価が掲載さ れています。今回私が受け取った「ヒルドイド」は1g当たり35.2点(35円20銭)となっています。35.2×25gですから880円 これが定価ですが、仕入れ値はこの何%になるのでしょう?そこまでは解りません。売値 より仕入れ値が低いのは常識ですから、これはまあいいでしょう。
 次にAの調剤基本料です。「調剤」と聞けば私達は薬剤師さんが専門知識を使って数種類の薬を調合し、その患者さんに合った薬を作ることのような気がしていました。 完成品たる1個の薬を棚から取り出し、手渡しするだけの作業を調剤と言い、保健のルー ルによるとこの行為に対して44点(440円)が支払われるようになっています。
 Bの指導料、今回薬剤師さんが「一日一回お風呂上りに患部へ塗って下さい」と口で言うだけのことです。これを言うだけで22点(220円)。管理料は「薬歴簿」という手帳を渡し、そこへ"何月何日、どんな薬を渡した"と記入することです。これは10点(100円) が支払われます。

 これらをまとめて俗な言い方をすると、仕入れ値880円以下の薬に粗利益860円を加えて売った。 となり倍率にすると2倍以上。ちなみに、この薬を一般薬局で買えば定価で880円です。薬屋さんはここから仕入れ値を引いた差額だけで全てを賄っているのですから差は歴然としています。前述の棚からの取り出し、用法の説明等は当然ながらサービスということになります。


私達の目に見えない所で大きな金が動いている。
 医院以外の別の所で薬を渡すため、その伝達手段として「処方箋」と言う書類が必要になり、これが一枚に付き81点(810円)が医師側に支払われることになっているそうです。 私が支払ったのは450円ですが、その他、目に見えない所で計2,122円ものお金が動いていることになります。
 私が気になるのは、これらの金額は全てルールに(規制)によって決定されている点にあります。事業者間に競争原理が働かない世界なのです。国民の総医療費が毎年上昇していく一因がこの点にもあるのではないでしょうか。氷山の水面に浮かんで見える部分が 450円、水面下の見えない部分が2,122円。一般薬局で買えば880円。個人の損得で言えば450円が安いに決まっていますが全体でみれば1,692円のコスト高ということになって しまいます。
 しかし別の見方では専門の薬剤師さんにお世話になる安心料ということも出来ます。その後の私はと言えば、この痒みの原因と対策は解ったので、入浴後、肌に湿り気を保つ市販のクリームを塗って事なきを得ています。

 巷では市内通話料金を巡って、NTTが9円にすると発表すれば他の電話会社が8円80銭 にすると新聞広告を出すなど、激しい競争を繰り広げているのに比べ、規制に守られた調剤薬局は何と暖かい「ひなたぼっこ」と感じるのは私だけでしょうか。