初めての手術台 序章

 人間とは、誠に勝手なもので仕事に追い回され自由が利かない時は、少し途切れて くれないかなあと願い、イザ、途切れてしまうと、途端に不安になります。私の場合は。お勤めの方は そうではないかもしれません。仕事が暇になり、何となく心が寂しくなった時、それを埋める為に 私は趣味の方にウェートを置くようになります。
 その趣味とは、このページにも時々出て来るように、家具造り、ダンボール箱をリサイクルして造る 手下げ箱、ロール紙の芯を利用して造るペン立て、昔懐かしい竹馬、それに今回のメインテーマに なる「刃物研ぎ」です。
 この刃物研ぎがやってみると、なかなか深みのある面白い技術の上、包丁やハサミなどの切り味が 蘇った時の女性達の喜びに味をしめ、すっかり自分の中に趣味として定着してしまいました。と言うより は、むしろ副業に近くなったのです。
 最初のうちは近所の奥さん方に頼まれ、一本、二本と研いでは喜ばれていました。そのうちにそれでは 満足がいかなくなり、町内のクリーニング屋さんに取次ぎの看板を出して貰うようになり、そこからも チョクチョク注文が入るようになりました。その辺りで満足しておけば今回のテーマでもある手術台に 乗ることもなかったのですが。調子に乗った私は、ミニ新聞にも小さな広告を出して貰ったところ、何と 固定客がついてしまったのです。そのお客様というのは水産会社で、主に蟹を捌いて冷凍保存するのに使う 業務用包丁です。それも週に一度づつ、10本、15本と頼まれるようになったのです。もう、こうなると 趣味から副業の域に入って参ります。